大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

福岡高等裁判所 昭和53年(行コ)18号 判決

福岡市西区高取二丁目一六-二三

控訴人

永弘開発株式会社

右代表者代表取締役

元木瑠璃子

右訴訟代理人弁護士

森田莞一

福岡市西区百蓮一丁目五-二三

被控訴人

西福岡税務署長

右指定代理人

川崎隆之

小柳淳一郎

米倉実

金子久生

中島亨

荒牧敬有

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、「一原判決を取消す。二控訴人の昭和四五年四月一日から昭和四六年三月三一日に至る事業年度分の法人税について、被控訴人が昭和四七年六月二八日付でなした更正処分中、所得金額八三八万九三一五円、税額二八二万〇五〇〇円を超える部分を取消す。三控訴人の右事業年度分の法人税について、被控訴人が昭和五〇年一月三日付でなした過少申告加算税二八万四五〇〇円の賦課処分中、一四万一〇〇〇円を超える部分を取消す。四訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は主文同旨の判決を求めた。

当事者双方の主張及び証拠の関係は、左のとおり付加する外は、原判決事実摘示のとおりであるから、こゝにこれを引用する。

一  (控訴人の主張)

1  本件係争地を含む保留地一万三一六三坪については、訴外大野町乙金土地区画整理組合を施行者とする本件区画整理事業において、県知事の事業計画の認可を受けた上、昭和四二年三月三一日換地処分の公告がなされ、翌四月一日同組合に対し所有権保存の登記がなされたものである。従って、土地区画整理法一〇四条により、本件係争地について従前存在した権利は一切消滅し、同組合においてその所有権を原始的に取得したものであるから、それがなお控訴会社の所有に属することを前提として、その売却利益に課税した被控訴人の処分は違法である。

2  仮に、本件係争地の所有権が控訴人に属するとしても、本件係争地は保留地全体の中において特定されていないのみならず、右の保留地一万三一六三坪の処分は昭和四一年五月から昭和四六年二月までの間数回に亘って合計代金一億五四三三万八〇八〇円にて売却されているから、本件係争地の売却代金の算定は、右金一億五四三三万八〇八〇円を全保留地の面積一万三一六三坪と一七一三坪で按分算出する以外に方法がなく、これによれば、本件係争地の売却代金は金二〇一一万七四九円となり、被控訴人が認定した売却代金二五〇六万五七〇〇円を下廻る。

3  また、本件更正処分は昭和四七年六月二六日付でなされているところ、国税通則法七〇条の除斥期間の定めにより、両日更正処分が許されるのは、申告期限が昭和四五年五月末日となる。昭和四四年四月以降の事業年度分に限られることが明らかである。しかして、本件係争地の売却代金二〇一一万七四九円のうち、前同様の按分方式により、昭和四一年度以降の各事業年度別の売却代金相当額を算出すれば、昭和四四年四月から同四五年三月までが金八〇七万八〇五八円、昭和四五年四月から同四六年三月までが金一四九万六三〇〇円となり、その合計金九五七万四三五八円に限り、更正処分が許されることゝなる。従って、右金九五七万四三五八円を超えてした本件更正処分は違法であり、取消しを免れない。

二  (被控訴人の主張)

1  税法の解釈、適用に当っては、いわゆる実質主義の原則に基づき、法形式ないしは法の外形的評価より、実質的な経済利益の評価を重視すべきは当然であり、本件係争地の所有権が、土地区画整理法上、控訴人から組合へ移転した外形的事実があるとしても、所有権移転の実質的な趣旨が控訴人の組合に対する債務担保にある以上、本件係争地の売却利益の帰属が控訴人にあることを前提とする賦課処分は、税法上当然であり、なんら違法な廉はない。

2  本件係争地の具体的特定が必らずしも明らかでないことは控訴人指摘のとおりであるが、課税対象となるべき本件係争地の売却代金額については、控訴人と組合の間において、組合が昭和四五年六月一日大野町に対し売渡した保留地三三五二坪の売却代金中の金二五〇六万五七〇〇円をもって控訴人の組合に対する右と同額の債務の弁済に充当する旨の合意がなされており、且つ組合の会計帳簿上の処理、清算も右合意と符合する処理がなされている事実に徴すれば、本件係争地の売却は昭和四五年六月一日であり、売買代金額は金二五〇六万五七〇〇円である旨認定した本件課税処分は正当であり、違法、不当な点は存しない。

三  (当審における証拠関係)

1  控訴人

イ  甲第一二ないし第二七号証

ロ  証人武末貢

ハ  乙第二三号証の一ないし四の成立は認める。

2  被控訴人

イ  乙第二三号証の一ないし四

ロ  甲第一二号証中土地売買契約書の部分、第一三、第二三ないし第二五号証の成立は認めるが、その余の甲号各証(甲第一二号証中契約書以外の部分を含む)の成立は不知である。

理由

一  当裁判所は、当審における新たな証拠調の結果を参酌しても被控訴人の賦課処分を違法とする控訴人の本訴請求は失当であり棄却を免れないもの、と判断するが、その理由は、左のとおり付加する外は、原判決理由説示と同一であるから、ここにこれを引用する。

1  控訴人は本件係争地が土地区画整理法所定の手続を経た後同組合名義に所有権保存の登記がなされた点を捉えて、その所有権が確定的に同組合に帰属した旨主張し、本件係争地の売却利益につき控訴人に対する課税処分が違法であると主張するが、本件係争地が適法に土地区画整理法所定の手続を経て同組合名義に所有権保存の登記がなされ、従って同法第一〇四条により換地処分前の権利一切が消滅したものとされる場合であっても、同組合の所有権取得の実質的趣旨が前示引用に係る原判決一〇枚目裏三行目の「原告(旭不動産)」以下同一三枚目表一〇行目までの理由説示のとおり、控訴人の同組合に対する債務担保にあり、当該債務が本件係争地の売却代金をもって清算されることが予定されている関係にあるときは、右売却利益は究極的には控訴人の利益に帰するものであり、控訴人に対し賦課処分をもって臨むことは、税法上なんらの疑義を生ぜしめるものではない、といわなければならず、この点の控訴人の主張は、当裁判所の採用しがたいところである。

2  また、控訴人は、本件係争地が保留地全体の中において具体的に特定されていないことを指摘して、数事業年度に亘る保留地全体の売却代金につき本件係争地全体の各面積比率に按分比例して算出した金額をもって本件係争地の売却代金額とした上、更に、これを前提として、国税通則法七〇条所定の除斥期間による更正処分の限界を主張する。

確かに、当審証人武末貢の証言によれば、本件土地区画整理事業による換地処分を受けた保留地全体は、昭和四一年五月から同四六年二月まで数事業年度に跨り売却されたこと及び本件係争地は右の保留地全体の中において具体的に特定されておらず、従って本件係争地のどの部分がどの事業年度に売却されたかは具体的に明らかでないことが認められるのであるが、同時に原審証人山本茂幸の証言により成立の真正を認める乙第一四号証の一、二、原審証人小柳淳一郎の証言により成立の真正を認める乙第一七ないし第二一号証と右各同証言を総合すると、昭和四五年六月一日、保留地合計一万〇九一八・一三平方メートルが組合から訴外大野町へ代金五六一四万六四一〇円にて売却され、その代金の一部と組合が控訴人に対して有する債権合計金二五〇六万五七〇〇円とが相殺清算されたが、右は組合控訴人両者合意の上であること及び同組合の会計帳簿上の処地は、本件係争地が昭和四五年六月一日に代金二五〇六万五七〇〇円にて売却された事実を前提としていることが認められるのであって、右認定の事実に前示引用に係る原判決理由説示のとおり、本件係争地が控訴人から組合へ提供され、同組合が土地区画整理法により所有権を取得した経緯及び控訴人と組合との権利義務の関係を彼此考へ併せると、本件係争地の具体的不特定に拘らず、その売却利益は金二五〇六万五七〇〇円であり、右代金額は全て昭和四五年六月一日の売却により発生したものとして課税することは、課税手続の実質主義を尊重する建前から、これを容認できるもの、と解するのが相当である。

してみれば、この点の控訴人の主張もまた採用の限りでない。

二  よって右と同旨の原判決は相当であり、本件控訴は理由がないからこれを棄却すべく、控訴費用の負担について民訴法九五条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 高石博良 裁判官 鍋山健 裁判官 足立昭二)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例